もうすこしで天竺

ある崖っぷち人間の読書備忘録。

ハイゼンベルク『現代物理学の思想』:文理を問わぬ必読書

好きな詩人がタイトルにこの人の名前を使っていたのと、歴史番組で名前と映像が出ていたのとで、著作を手にとって読んでみた。テレビでは天才天才と言われすぎていて、本当はどんなものだと疑ってかかっていたのだが、油断していた。

 

読んだら、あまりの天才さに驚く。

 

著者の専門は理論物理学。最初は英語で読んでいたのだが、専門用語もきっちりと読んでおきたくなって、途中から日本語に切り替えた。

ただし、専門用語といっても物理学の専門用語ばかりではない。

これが驚きだったのだが、量子論を専門とする著者は、まさか原子論をはじめに唱えたギリシャ哲学者にまでさかのぼってから、量子について論じる。そして議論が中世に差し掛かる頃で、デカルトが登場。ここから科学は、観察者(「私」)と世界とを二分してしまったと。しかし量子論は、科学から切り離された観察者という視点をもう一度科学に翻すこととなった。観察者の視点を導入することによって、科学は再び、世界を「客観的」には理解しきることのできないものへと戻した。

要約するとこんなところだろうか。

(だからといって、ハイゼンベルクは完全な主観に堕してはならないと警告している。観察するものと観察されるものの相互関係という閉じた枠組があるから、因果律がかき消されるわけではない)

 

この人のすごいところは、量子論というごく限られた分野(たぶん)を専門としながら、自分の研究がどのような意味を持っているのか、考え抜いているところだと思う。だから、単純な「こうすればこれが得られる」という利益・利便の追求に陥ることがなく、自分の理論への強い責任感を感じる。

 

量子というものを完全に読み切ることはできないと認めつつも、読み解こうとせずにはいられない。

こうした真摯さを何よりも尊敬する。

世の中を飛び交う安っぽい言説(「スーパー日本人」とか)にうんざりしたときは、こういう素晴らしい本を読むに限る。

 

現代物理学の思想 新装版

現代物理学の思想 新装版

 

 

 

Physics and Philosophy: The Revolution in Modern Science (Harper Perennial Modern Thought)

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